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新作撮影報告 その105 ベイ子の物語  山田農場

ベイ子

 

今回山田農場に滞在していて、とても感動したことがあった。

今思い出したので記します。

 

山田農所には2頭の牛がいる。

ベイ子とメイ。

ベイ子は圭介さんが前に勤めていた新得共働学舎から連れて来た。

山田農場の初めての牛で、圭介さんとあゆみさんと苦楽を共にしてきた。

 

メイ

そしてベイ子の娘のメイは、山田農場で生まれて育った牛。

去年の春、無事に初めての子どもを産んだ。

 

当初、山田農場は牛をメインでチーズをつくっていこうとしていた。

その環境が整うまで、扱いやすいヤギを飼い、チーズをつくることにした。

そのヤギのチーズがとてもおいしくできるようになりお客さんもついた。

 

今後のことを考えると、大きな牛を飼ってたくさんのエネルギーを使うより、人間と同じくらいの大きさのヤギで農場をやっていこうと、

圭介さんとあゆみちゃんは考えるようになった。

 

メイはこの農場で生まれた牛なので、最後まで面倒見ようという心づもりをしていた。

そしてこの春、圭介さんとあゆみちゃんは、ついにベイ子を売る決心をしていたのだった。

 

牛を売る時、種をつけていないと高く売れない。

圭介さんたちもベイ子に種つけをしているものの、なかなか種がつかない。

そんなベイ子の頭をなぜながら、圭介さんは言ったそうだ。

「お前、最後までここにいるかー?」

すると間もなく種が付いた。

 

「ベイ子、ここにいたかったんだね。」

ということで、ベイ子は最後まで山田農場にいることになった。

「きっと長いぞー。のんびりしてるもんなー。」

と圭介さんは嬉しそうに言った。

 

 

ベイ子はここにいたかったんだ。

だから妊娠しなかった。

そして圭介さんとあゆみちゃんも、本当はベイ子を手放したくなかったのだ。

山田農場にとっても牛はもちろん経済動物だけど、それだけではない。

こういう関係もあるんだなあ。

 

「ベイ子、よかったねー!」

もぐもぐエサを食べるベイ子に私は声をかけた。

 

[…]

新作撮影報告 その104 再びのハル小屋上映会

ハル小屋

 

 

2012年3月7日。

聡美さんも5時ころ起きて家に帰っていた。

親方とおかみさんも、もう出かけていた。

休みの日も朝早くから行動するのだなあ。

 

親方宅の居間からの眺め

 

残った野村さん、石川さん、私。

洗い物など片付けて、昨晩の残り物で朝食。

コーヒーは私が落とす。

 

親方の家は空間が広くてほんと気持ちがいい。

今回の上映会を企画してくれた野村さん、ハルエさん、石川さん。

今日は午後から「空想の森」の上映会。

野村さんたちが企画してくれた。

 

私は早めに、ハル小屋へ向かった。

ここもすごい雪、雪、雪。

しかもズブズブ。

私の四駆の車でもやっとという感じだった。

 

このひどい道路状況で果たして人は来てくれるのだろうかと心配になる。

 

上映会場を提供してくれたハル枝さんはいつものように元気だった。

ハル小屋での上映は2回目。

中にに入ると、もう上映機材はセットされており、スクリーンが前より大きなものになっていた。

こたつも用意されていてなかなかいい雰囲気になっていた。

私は早速本篇DVDのチェックをした。

野村さんと石川さんもやってきて、こたつでお昼ご飯をいただいた。

 

そしてボチボチお客さんがやってきた。

あゆみちゃんもハルサクを連れてやってきて、10人ほどの人たちが来てくれた。

子どもを連れて来た人も何人かいた。

この道路状況で来ていただいてありがたかった。

 

上映は、はじめは何事もなかったが、30分くらいたって、映像が止まったりするようになった。

それでも何とか進んだが、相性が悪いのかと思い、後半から違うDVDに変えて上映してみたが、こちらも時々映像が止まったりした。

それがほんとに申しわけなかった。

DVDの場合は、事前に上映する機材で全編再生して確認する必要があると思った。

後で他のプレーヤーで同じDVDを上映したら何も問題がなかった。

やはりプレーヤーとの相性が悪かったようだ。

[…]

新作撮影報告 その103 山田農場 誕生の春 その2

 

 

2012年3月6日。

早朝。

搾乳が始まった気配。

撮りたい。

と思ったが、体を休めた方がいいと思い直し、また布団をかぶる。

メイ。去年私はメイの初産に立ち会った。

 

今日は圭介さん、あゆみさんのインタビュー撮影と、夜はこなひき小屋の親方宅で親しい人たちで「空想の森」上映会という予定。

 

朝起きて、昨日生まれた子ヤギを見行くと、元気にお母さんといっしょにいた。

時々鳴く声がかわいい。

ボー。何をされてもされるがままのボー先生なのである。

朝ごはん。

たっぷりとチーズをいただく。

子どもたちは元気に保育所に出かけて行った。

圭介さんとあゆみさんの仕事が一段落してから、インタビューをさせてもらった。

3.11からもうすぐ1年が経とうとする今、何を思っているのか聞いてみた。

3.11で衝撃を受けた後、自分のこととして受け止め、では自分はどうありたいのか、そして何をしていけばいいのかということに真摯に向き合い、夫婦で日々話をしてきた。

その中で、自分たちの暮らしの在り方・農場の方向性がはっきりとわかってきたという。

そしてそれが誰かの役にたつのであれば、どんどん発信していこうと思うようになった。

3.11は圭介さんとあゆみさんを大きく変えた。

 

私は感動をもって圭介さんの話を聞いていた。

3.11後、たくさんの情報がとびかい、食べ物を扱う仕事をしている人にとっては、とても厳しい現状になっている。

そんな中で、圭介さんとあゆみさんは最善をつくし、動物たちと向き合い、チーズをつくり、真摯にお客さんに向き合い、常に自分たちが求める世界にベクトルを向け、共鳴する人たちとつながっていこうとしている。

圭介さんたちの話を聞いて、私は嬉しくてたまらなくなった。

そして、私も共にありたいと思った。

お昼もごちそうになり、私は夕方まで昼寝をさせてもらうことにした。

ウトウトと横になっていると、ヤギの声がした。

また生まれるのかなと思い、畜舎へ行ってみた。

すると、お母さんヤギが黄色いものをペロペロなめていた。

黄色い赤ちゃんらしき物体は動かない。

下で仕事をしている圭介さんに知らせた方がいいのかなと思いながら、じっと見ていたら、やがて白い頭がでてきた。

どうやら袋に包まれたまま出てきたようだ。

しばらくしたら動き出した。

このお母さんはかいがいしく馴れた感じでせっせと小ヤギをなめ続けていた。

 

牧草ロールをトラクターで下から運んできた圭介さんに、「生まれたよー」と叫んだ。

そして私はキャメラを準備して撮影をすることにした。

 

子ヤギとお母さん、そして圭介さんの牧草運び。

山田農場は山の中腹にあって、下の道からかなり急な傾斜を上がってこなくてはいけない。

[…]

新作撮影報告 その102 山田農場 誕生の春 その1

 

 

2012年3月5日。

洞爺湖・ラムヤートを後にして、夕方、山田農場に到着。

こちらもすごい雪。

深呼吸。いつものように清々しい気持ちになる。

ただ今、山田農場は出産ラッシュ。

次々と子ヤギが誕生している。

 

しかし今年は例年に比べて雪が多く気温も低い。

生まれた小ヤギは、お母さんヤギにくっついて過ごし、十分寒さをしのげて元気なはずなのに、

今年は生まれた翌朝、畜舎で亡くなっているケースがいくつかあったそうだ。

それに心を痛めたあゆみちゃんは、少し小さかったり、弱そうな子ヤギを元気になるまで家の中に入れることにした。

 

ストーブの横で眠っている小ヤギたち。

 

薪ストーブの脇のコンテナの中には、小さな小さな子ヤギが眠っていた。

ほとんど動かない。

あゆみちゃんは哺乳瓶でミルクを与えていた。

 

三男・ハルサクも元気だった。

 

お茶をいただきながらあゆみちゃんと話をしているとヤギの声がした。

「あ、生まれるかも。」とあゆみちゃん。

二人で畜舎に行ってみると、もうすぐ出産するヤギは特別隔離されておらず、他のヤギたちといっしょにいた。

もうすぐ生まれそうだった。

私は急いで撮影の準備をした。

お母さんヤギは初産とのことで、苦しそうな声を上げていた。

お母さんヤギから子ヤギの頭が出てくるのが見えてきた。

ここでテープがあと2分になった。

今のうちテープチェンジをしようと場を離れ、新しいテープを入れて畜舎に戻ると、もう生まれていた。

ものの5分もたってなかった。

ヤギのお産は早い。

家の中にいる小ヤギより大きかった。

 

お母さんは不慣れな感じで、小さな子ヤギの体をペロペロなめはじめた。

子ヤギは間もなく立ち上がり、お母さんのおっぱいめがけて近づいていく。

馴れないお母さんは、なかなかおっぱいを吸わせたがらない。

子ヤギはおっぱいを求めて果敢に進んでいくが、お母さんは逃げていく。

なかなか元気な子ヤギだった。

 

[…]

新作撮影報告 その101 ラムヤート・5年目の冬 その4

 

 

2012年3月4日。

快晴。

午前中、色々撮影。外ではマスキ君の薪をつくっている。

マスキ君は本当によく体を動かして働く。

ユウラとイッキュウは二人で雪遊び。

ユウラが年下のイッキュウに気を配る様子がなんともかわいい。

居間ではミワサン、ヨウコさん(三浦さんのお連れ合い)が話をしている。

その横でゴンちゃんはパンの試作に励んでいる。

 

私がラムヤートに滞在している時、毎日色んな人が訪ねてくるし、入れ替わり立ち代わり誰かが泊まっていく。

まるで宿のようだ。

そしてミワさんがとても自然に来客や子どもたちに細やかに心を配っている。

ここに集まってくる人たちと話すことも、私の楽しみの一つである。

ラムヤートでみんなと共に過ごしていることが、私の細胞に浸透していく。

 

私は傍らにいつもキャメラを持っている。

そして撮りたいと思ったら撮影をする。

撮影をしながらいっしょに過ごしていると、みんなが私を受け入れてくれていることを感じる。

だから私は嬉しくて心が軽やかになり、何でもできるような気になってくる。

 

ミワさんは元看護師。8年ほど前にマスキ君と洞爺にやってきてラムヤートを立ち上げた。

ラムヤートという店は、パンがおいしいのはもちろんだが、マスキ君とミワさんを中心に、

ひとりひとりのスタッフの個性が発揮されているなあと私は感じる。

あたたかくて、柔らかで、風通しのいい雰囲気をつくっているのはミワさんとマスキ君だと思う。

 

「私とマスキ君の役割がはっきりしている。」とミワさんが言うように、

二人は夫婦であると同時に、志を同じくする同志であると私はいつも感じる。

 

ユウラを産んでから、今までずっと子育て中心で家の仕事を主にやっていたミワさんが、

最近7年ぶりに週2回だけ隣町の病院で働き始めた。

それがとっても新鮮で面白いとのこと。

仕事に子育てに、ミワさんはますます活き活きしていた。

 

ご飯支度をするミワさんを撮影していた時、ファインダーの中のミワさんが内側からピカピカと光り輝いて見えた。

私は思わず、「ミワサン、美しいわ」とつぶやいた。

 

お昼。マスキ一家と三浦一家といっしょに外食。

といっても、道をはさんだ向かいの道の駅。

みんなでにぎやかに食事をして、ラムヤートに歩いて戻る。

 

マスキ君はさっそく店の前の除雪。

そこに近所のおばさんが通りかかった。

「こんにちはー!」とマスキ君はいつものように元気な声であいさつして世間話。

「あんたよく働くねー。」とおばさん。

このシーンを撮影できて私はとても嬉しかった。

 

一日ひとつ、ああ、これが撮れてよかったと思えるものがあればいいと思っているが、

今回の撮影では一日に二つ三つあるのが嬉しい。

 

14:00。今日は洞爺湖町の町民文化祭。三田健司さん率いる「トヤトヤ」というアフリカ太鼓のグループもこれに出演する。

ミワさん、チャイチャイ、コグレさんなど、みんなトヤトヤのメンバーだ。

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