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新作撮影報告 その103 山田農場 誕生の春 その2

 

 

2012年3月6日。

早朝。

搾乳が始まった気配。

撮りたい。

と思ったが、体を休めた方がいいと思い直し、また布団をかぶる。

メイ。去年私はメイの初産に立ち会った。

 

今日は圭介さん、あゆみさんのインタビュー撮影と、夜はこなひき小屋の親方宅で親しい人たちで「空想の森」上映会という予定。

 

朝起きて、昨日生まれた子ヤギを見行くと、元気にお母さんといっしょにいた。

時々鳴く声がかわいい。

ボー。何をされてもされるがままのボー先生なのである。

朝ごはん。

たっぷりとチーズをいただく。

子どもたちは元気に保育所に出かけて行った。

圭介さんとあゆみさんの仕事が一段落してから、インタビューをさせてもらった。

3.11からもうすぐ1年が経とうとする今、何を思っているのか聞いてみた。

3.11で衝撃を受けた後、自分のこととして受け止め、では自分はどうありたいのか、そして何をしていけばいいのかということに真摯に向き合い、夫婦で日々話をしてきた。

その中で、自分たちの暮らしの在り方・農場の方向性がはっきりとわかってきたという。

そしてそれが誰かの役にたつのであれば、どんどん発信していこうと思うようになった。

3.11は圭介さんとあゆみさんを大きく変えた。

 

私は感動をもって圭介さんの話を聞いていた。

3.11後、たくさんの情報がとびかい、食べ物を扱う仕事をしている人にとっては、とても厳しい現状になっている。

そんな中で、圭介さんとあゆみさんは最善をつくし、動物たちと向き合い、チーズをつくり、真摯にお客さんに向き合い、常に自分たちが求める世界にベクトルを向け、共鳴する人たちとつながっていこうとしている。

圭介さんたちの話を聞いて、私は嬉しくてたまらなくなった。

そして、私も共にありたいと思った。

お昼もごちそうになり、私は夕方まで昼寝をさせてもらうことにした。

ウトウトと横になっていると、ヤギの声がした。

また生まれるのかなと思い、畜舎へ行ってみた。

すると、お母さんヤギが黄色いものをペロペロなめていた。

黄色い赤ちゃんらしき物体は動かない。

下で仕事をしている圭介さんに知らせた方がいいのかなと思いながら、じっと見ていたら、やがて白い頭がでてきた。

どうやら袋に包まれたまま出てきたようだ。

しばらくしたら動き出した。

このお母さんはかいがいしく馴れた感じでせっせと小ヤギをなめ続けていた。

 

牧草ロールをトラクターで下から運んできた圭介さんに、「生まれたよー」と叫んだ。

そして私はキャメラを準備して撮影をすることにした。

 

子ヤギとお母さん、そして圭介さんの牧草運び。

山田農場は山の中腹にあって、下の道からかなり急な傾斜を上がってこなくてはいけない。

雪が多く、しかも気温が上がってズブズブになった雪に足をとられて、トラクターはなかなか上まで上がってこられない。

 

なんだかんだで、ずっと撮影をしていた。

そして、子どもたちが保育所から帰ってきた。

 

撮影を終え、私は山田農場を後にした。

途中、温泉に入ってから仁山の親方宅へ向かった。

親方の家の周辺も雪がすごかった。

親方宅。台所からの眺め。

親方宅にはすでに聡美さんが来ていて、おかみさんといっしょに料理をしていた。

私は彦根の奥田さんからいただいた日本酒を差し入れた。

とりあえず台所で3人でビールで乾杯した。

親方は、このズブズブの道を野村さんと石川さんが来られるか心配していた。

間もなく二人がやってきて、全員がそろった。

 

このメンバーだったら映画をみるのやめて話した方がよくない?

と私は言った。

 

みんな料理を持ち寄り、豪華な食卓となった。

親方が開口一番「オレは早く寝るぞ」と言った。

 

おかみさんの鶏肉のヨーグルトづけ、野村さんのお好み焼き、サラダ、聡美さんのケーキなど、ほんと美味しかった。

私はとてもお腹がすいていたので、いただきますと同時に一気に食べた。

 

親方はワインをサーブしてくれた。

親方はもてなすことと、ワインのうんちくを語ることが得意なのだ。

 

今回盛り上がった話題の一つは屋号。

私が「風の映画舎」という屋号にしたと話したところ、それは屋号と言わないよと親方。

えー、そうだったんだ。と私。

こなひき小屋にも「やまこ」という屋号があることを初めて知った。

つまり、北海道なんかは、入植してきた人たちで同じ苗字が多く、区別するために屋号をつけたということらしい。

じゃあ、「やまふ」はどう、「やまかぜ」なんかどうとか、みんな屋号つけようよなど、ひとしきり盛り上がった。

親方の家で飲んで語ることは特別面白い。

 

日付が変わる頃、私は眠くなってきた。

ソファーに移動して横になろうとした瞬間、親方が横にきた。

「寝るなー。」と言って私の頭をポンとたたいた。

「えー、もう12時回ってますよー。親方こそ眠くないんですか?」と私が言うと、

「バカヤロー、こんな面白い話してるのに寝られるわけねーだろ。」と親方。

そしてピース缶からタバコを一本取り出し、火をつけた。

親方はうまそうに煙を吐き出した。

それを見ていて、私も味見したくなった。

一口吸わせてもらった。

久しぶりに吸った煙草はうまかった。

 

「何タバコなんて吸ってるの。」と野村さんがやってきた。

そして彼女も久しぶりに一口タバコを吸った。

 

そして3時近くまで話が続いた。

普段は2時が親方の起床時間。

「オレ丸一日起きているわ。」と言いながら最後まで親方は話をしていた。

「オレは早く寝るからな」と言ったのは誰だったんだろう。

翌日が休みなので、親方もおかみさんもリラックスできたのだろう。

今宵も楽しくおいしい夜だった。

 

 

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