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旅する映画 その62 北海道・鷹栖町

2010年9月18日。

今回の上映会の主催は鷹栖町の松下音次郎さん、理香子さんご夫婦。

ご自宅がお二人の仕事場でもある。

音次郎さんは車椅子を使う人が使いやすいように加工する仕事をしている。

1階は木材を加工する様々な機械があり、小さな工場のようだ。

2階が自宅で週末にはカフェになる。

この日、雨の予報が出ていた。

前日に理香子さんと電話で話した時、天気の話題になった。

理香子さんは晴れ女、私も晴れ女。

だからきっと大丈夫だと。

その通り、スカッと秋晴れで気持ちのいい日になった。

私が松下家に到着すると大にぎわいだった。

この日「sunにー市」が庭で開催されていて、様々な出店が所狭しと庭に並んでいた。


左:松下理香子さん、右:ふんどし屋さん

理香子さんは関西風うどん屋。大繁盛していた。

お出汁がとても上品でおいしい。

後で出汁のとりかたを教えてもらった。

音次郎さんは母屋2階のデッキにある五右衛門風呂で子供たちを風呂に入れていて大忙し。


フンドシ
和寒のフンドシ屋さんも出店していた。

ウッドデッキの上でフラダンスが始まり場が華やいだ。

大人も子供もみんな楽しんでいた。

自分の家でこういう祭をやってしまう音次郎さんと理香子さんはすごいなあと思う。

15:00過ぎ、市は終了。

私と音次郎さんは18:00からの上映会の準備のため、ここから車で5運ほどの会場の古民家・ノーマライゼーションセンターに向かう。

行く途中に今日の「空想の森」上映会と明日のイベント「あるひ、森で・・・」の看板をいくつか見かけた。

私の好みの感じで嬉しくなる。

機材を運び込み上映準備にかかった。

プロジェクターは最近音次郎さんが購入したもの。

小さくて明るくてなかなかよかった。

スピーカーは音次郎さん自慢のもの。

どこで聴いても音が同じように聞こえるという。

木の筒型でそれほど大きくはない。

この音が本当によかった。

音量を上げても耳ざわりが悪くなく、まろい音で私の好きな音質だった。

スクリーンはこれまた音次郎さんの手づくりで150インチ以上はある大きなもの。

どこにでも売っている白いテーブルクロスの生地を買ってきて(2700円)、上下の木の板にガムテープで生地をはりつけた。

そしてスピーカー用の三脚に木の板をくっつけて、それにスクリーンを固定するという極めてシンプルなつくり。

この白地のテーブルクロスが優れもので、発色もよく、へたなスクリーンよりよっぽどいい。


音次郎さん自慢のスピーカー

上映会をやると決めてから、音次郎さんはいい上映にするために機材について調べ上げたそうだ。

その甲斐あってクオリティの高い上映となった。

私はそれがありがたく、嬉しくてたまらない。

当然のことながら上映会は毎回、場所も機材も違う。

その中で私は、最大限いい画と音になるよう調整をしている。

作り手としては、少しでもいい状態でお客さんに観てもらいたいと強く思っている。

画や音も、少しでもよくなるよう一生懸命つくったので、なるべくその状態をお客さんに見せたい・聴かせたい、という思いがある。

しかしなんといっても自主上映の場合、会場の雰囲気・来たお客さん・主催者の方々の人柄、そして「空想の森」が混ざり合って作り出す時間と空間が一番の魅力でもある。

だからどの上映会もそれぞれ忘れがたい。

スタッフの方たちが座布団を並べたり、部屋を仕切っている戸板をはずしたりして会場を作り始めた。

映画を製作している頃から応援してくれている大谷淳子さんも手伝いに来てくれた。

そうこうしている内にお客さんが次々とやってきた。

今年3月にパラダイスファームで上映会をしてくれた「とりのす農場」の藤原さんも来てくれた。

彼が上映してくれたことで、今回の鷹栖町の上映につながったのだ。

続々とお客さんがやってきたので、奥につめてもらったり、縁側にイスを置いたりしてなんとか全員納まった。

なんとも嬉しい込み具合だった。


松下音次郎さん

音次郎さんの挨拶で上映会が始まった。

途中何度か私は音量を上げた。

人がたくさん入ったから、音が吸収されたらしい。

スピーカーがいいから、細部の音もしっかり聞こえた。

画も明るく発色もいい。

そして、農作業のシーンではどよめきがおき、随所にちりばめている笑い所ではクスクスと笑い声が会場を包む中、私は人の頭越しに映画を観ながら幸せをかみしめた。

上映後の質疑応答もいくつも質問や感想が出て、活発でいい雰囲気だった。

音次郎さんは最後の挨拶でこんなことを言った。

小さい頃の夢は、銭湯の番台に座る事と映画館の館主だった。

それが今日一日でいっぺんにかなってとても嬉しいと。

ほんと、夢がかなっていると私は思った。

帰り際、札幌の方から観にきてくれた若い女性たちや数年前に鷹栖町に移住してきたご夫婦などに声をかけられ色々お話をした。

また上映がつながっていきそうな予感がした。


手づくりスクリーンの前で記念撮影

機材を片付け、会場で打ち上げ。

あったかくて、ほんといい上映会だった。

音次郎さんも理香子さんも嬉しそうだった。

100年前この家に住んでいた人は、100年後に自分の家でこんなに人が集まってなにやらやっているなんて想像もしていなかったろう。

この日は音次郎さん・理香子さんの家に泊めていただく。

夜、雨が降り出した。

雨だれの音をいくらも聞かないうちに眠りに落ちた。

2010年9月19日。

朝起きると雨が少し降っていた。

それにしても気分のいい家だった。

音次郎さん・理香子さんは「あるひ、もりで・・・」のイベントの準備で出たり入ったりしていた。


森の受付

昨日の上映会場の古民家の裏手の森の中で、旭川周辺のアーティストたちが自分の作品を展示する。

古民家の中は、理香子さんがうどん屋をやっていたり、作品の販売をしていたり、休憩所だったりという感じ。


橋本泰子さん

「あるひ、もりで・・・」は、この森で何かをやりたかった橋本泰子さんという徳島県出身の女性が企画した。

私が昼前に森へ行くと、雨はやんだ。そして陽射しも強く暑くなってきた。

森を歩きながら色んな人の作品をみてまわった。


飛鳥馬隆二さん

音次郎さんのところで働いている飛鳥馬隆二さんの作品が一番初めにあった。

シーカヤックとパドル。

こでれ知床の海をこいだそうだ。

東京・浅草出身の彼が音次郎さんのところで働くようになり、そこで出会った女性と結婚し娘が生まれた。

そんな話をしながら、人にはそれぞれ物語があるのだなあと思った。

音次郎さんの作品もあった。大木の木の皮でつくった親子?

製作途中に崩壊したり、前日にも顔が崩れてしまったり大変だったそうだ。

森の中で米袋でトートバックをつくるワークショップをやっていた。

米処鷹栖町だからか。私も参加した。

とても簡単で丈夫なバックができた。

持ち手は皮。これはなかなか実用的でいい。

午後になってこの森めがけて続々と人がやってきた。

森の中も大にぎわいだった。


前のコーヒー豆は、私がロケットストーブで焙煎したもの


ロケットストーブ。音次郎さんがつくった。

古民家の前には薪カフェが出店していた。

ロケットストーブが2台あり、それでお湯を沸かし、焙煎をする。私はここでコーヒーを飲んだり、焙煎をしたりして楽しんでいた。

コーヒーは非常によく売れた。

人手がたりなくなったので帰る時間まで手伝った。

私はコーヒーを入れることが飲むことより好きなので楽しかった。

鷹栖町の森で、大勢の人が集い、食べたり飲んだり話したり、大人も子供も動物も、それぞれがこの時間と空間を満喫している。

同じ空の下のこの時間、きっと新得の新内小学校でもこのような時間が流れているのだろうことを想う。

豊かとは、こういうことをいうのだと私は思う。

音次郎さんと理香子さんとハグして別れ、私は新得空想の森映画祭へ向かった。

富良野の山々の夕景が美しく、私はとても満たされていた。

 

 

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