夏の陽が大地に降り注ぎ、風が緑を揺らしている。
去年の夏、東京のポレポレ東中野で『空想の森』を公開した。
それから私は、映画といっしょに日本を旅している。
つくった映画を自分で人々に届けたい。
そしてその場に身を置き、いっしょに観たいと私は思っている。
映画はライブだ。
観る人・場所が変われば、同じ映画でも前に観た時と違ってみえる。
もっと言えば、同じ劇場でも、毎日観たら一回とて同じに見えたことはなかった。
この一年、5箇所の劇場、5つの映画祭で上映をしてきた。
そこで観た人の中から、「自分の町でも上映会をやりたい。」という人が何人も現れた。
群馬、滋賀、名古屋、京都などなど。今まで6箇所の自主上映をしてきた。
そのどれもが、私にとって宝物のような時間と空間だ。
映画と出会ってから、私自身が初めて映画に関わったのがドキュメンタリー映画『阿賀に生きる』の自主上映会。
仲間4人で準備し、大勢の人たちを巻き込んでいった。当日、撮影の小林茂さんもお招きし、250人を集客した。
この日のことを、私は一生忘れないだろう。
たぶんこれが私の原点だ。
自主上映会というのは、つくり手の私と、この映画を人に観てもらいたいという主催者の人とのコラボレーションであり、やりたいことを如何様にもできる表現の場であると私は考えている。
どの上映会も主催者の個性が出て面白い。 自主上映を申し出た人のほとんどが初めての経験だ。
だからみんな会場のこと、機材のこと、宣伝のこと、スタッフのことそしてお金のことで頭を悩ませる。一人ではできない。
だから仲間を探す。人を巻き込んでいく。色んな穴がボコボコ開いているから、そこを埋めようとしてくれる人が現れたりする。
同じ地域に暮らしながら知らなかった人たちとの交流がはじまる。
様々な問題をみんなで乗り越え、上映会を成功させた時の喜びは言葉では表せない。
後から振り返ると、準備の過程がスリリングでドラマがあり面白かったりする。
『空想の森』を観て何かを感じ、共鳴してくれただけでも嬉しいのに、更に、もっと多くの人に観てもらいたいから、自分の町で自主上映をやろうじゃないかという人が全国にいることがわかってきた。
映画の力を私は実感するようになった。
映画は多くの人との出会いをもたらしてくれる。
そして日本各地の人の暮らしや仕事に少しだけ触れさせてもらえる。
そこから色々な刺激を受ける。
暮らしている土地は違うが、同じ時代を生き、面白さや喜びを映画を通して共有できることが嬉しい。
目には見えない輪が増えてきている。
これからも空想の森の旅は続く。