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旅する映画 その8 高崎映画祭2日目

2009年4月6日。 春の陽気。 宿から上映会場のシティギャラリーまで15分ほど歩く。 満開の桜。 少し眠り足りないが、心地よい気分だ。

11:00。上映時間になった。 300人以上入る大きな会場に20人弱のお客さんだった。 少しさみしい気もするが、モノは考えよう。 平日の午前中にわざわざ「空想の森」を見に来てくださったのだ。 ありがたい気持ちでいっぱいになる。

映画祭スタッフたち。シティギャラリーにて。

昨日に引き続き、志尾さんがまず、作品と私を紹介。 この日も志尾さんは心のこもった言葉で紹介してくれた。 そして私は、会場のお客さんの顔をみながら、 映画完成後、全国を上映して歩きながら感じていることを中心に話をした。

上映後、ロビーで何人かの方が話しかけてくれた。 その中の一人が岩田紀子さんだった。 映画を見て、何か心に触れたらしく、彼女は高揚していた。 つられて私もテンションが上がる。 彼女は群馬県榛東村で無農薬で梅や古代米をつくっている農家。 何年か前に、自分は梅でやっていこうと決心し、 今ようやく、梅を通して人とつながっていることを実感しはじめたそうだ。 私が映画を上映して歩いていることと通じるものを感じたのだろう。 「6月末に梅祭りを自分の梅林でやる予定なので、そこで野外上映したいのですが。」 と彼女は言った。 「へー、面白い。一度野外上映をやってみたいと思ってるんだ。やろう、やろう。私も行くからよんでください。」 まず、本当に野外でできるか調べて、無理な場合は彼女の家で。ということにした。 自宅は昔の農家の家をリフォームした大きな家とのこと。 私は、昨年12月に中医研で自主上映をやってくれたメンバーの竹渕さん、鈴木さんあたりに 相談に乗ってもらったらどうかと彼女に言った。 そんなこんなで、大変盛り上がって彼女と別れた。

小松さん一家 小松一家4人が私に会いに会場に来てくれた。

チヅコさん チヅコさんは次の映画を見にやってきていて、また再会。 12月の上映会に見に来てきてくれた女性がまた見に来てくれて感想などを話してくれた。

次の上映は、「原口鶴子の青春」。泉悦子監督と再会した。 志尾さんと泉さんと3人で、ホールの2階の喫茶店でお昼をご一緒した。 100人を超すお客さんが入っていて、泉さんはとても嬉しそうで張り切っていた。 3人で楽しくおしゃべりをした。 志尾さんが、今夜最終上映が終わったら、晩ご飯を食べに行きましょうと言って別れた。

私は高崎の町を歩いた。 至福の時をかみしめた。

桜が見える道端に腰かけた。 自主上映が決まったことを知らせようと、竹渕さんなどに電話をかけた。 鈴木さんに電話をかけると・・・。

鈴木「もう今岩田さん来てます。早速色々話してるところです。」 田代「早っ。」 鈴木「監督、いつ帰るんですか?」 […]

旅する映画 その7 高崎映画祭1日目

2009年4月5日。 朝。 子供たちがはしゃいでいる元気な声が聞こえる。 宮下さんも、もう起きているようだ。 二日酔い気味の私は、しばらくまどろむ。 今日はいよいよ、高崎映画祭での上映だ。

この日の午前中、12月の自主上映会の会場だった中医研で、 月に一度の朝市があるとのこと。 「空想の森」は18:10からの上映だ。それまで時間がある。 かおりさんもこの朝市に出店することもあるそうだ。 ぜひ朝市を見せたいということで、みんなで行くことになった。

鈴木真吾さん (「野菜と暮らそう」の店主) 中医研はやっぱり不思議な空間だった。 12月の上映会から、ずいぶん時間が過ぎたような気もするし、 あっという間だったような気もする。

この朝市は、昨日の飲み会でいっしょだった人たちが中心になってやっている。 「野菜と暮らそう」(野菜屋)を覗くと、鈴木さんがいた。

農Cafeの岩田さん その横に、梅農家の女性が、梅の酵素ジュースとおいなりさんを売っていた。 私はそれを両方頼んで、その場で食した。 宮下さんはおいなりさんを食べた。 「あったかいジュースがとってもおいしいです。」などと話していたら、 鈴木さんがやってきて、「高崎映祭で今日と明日上映するんですよ。」 と映画の宣伝をしてくれた。

左が甲田くん 中医研の中に入ると、吉田さんがニコニコといた。 甲田くんも店を出していた。

12月の上映会で受付をやってくれた若者も出店していた

皮製品、フェルト、パン、マフィン、お弁当、野菜、みんなそれぞれ 思い思いのものを出していた。 私は店をひとつひとつ見ながら、お店の人とのおしゃべりを楽しんでいた。

12月の上映会で映画を見た人たちから声をかけられたりして、 また話がはずんでいった。 「とってもいい映画でした。もっと多くの人に見せたい映画です。」 など、とても嬉しい言葉をいただいたので、私は宮下さんを探した。 直接宮下さんに聞いてもらいたかったからだ。 宮下さんは映画を見てくれた人から直に感想を聞いていた。 私はニマニマしながらそれを眺めていた。

鈴木酒店のご夫婦 鈴木酒店もご夫婦で出店していた。 奥さんは前回の上映会で映画を見いてくださっていた。 話をしているうちに、今、名古屋で空想の森上映会を計画中の 北村酒店の北村彰彦さん、北海道の幕別町の福田商店の大将とも お知り合いということがわかった。 世の中広いようで狭いものだ。 酒屋つながりも、けっこう面白いものがあるようだ。 私の映画は、なぜか農家や酒屋をやっている人たちと縁がある。 食べ物とお酒。 […]

旅する映画 その6 高崎映画祭前夜

シティギャラリーにて 宮下喜夫さんと。 2009年4月4日。 いざ、高崎映画祭へ。 これから起こるであろうことを想像して、 ついついテンションが上がってしまう私であった。 上映はいつもワクワクするし緊張もする。 今回は、会場で宮下さんもいっしょにお客さんの反応を感じることができるし、 前に自主上映してくれたメンバーと宮下さんが話すことができる。 それが何より嬉しい。 高崎には、私たちを待っていてくれる人たちがいるのだ。

まだ雪をかぶっている日高の山々を眺めつつ、 興奮を抑えながらハンドルを握り帯広空港へ。 宮下さんはブレザーを着てやってきた。

田代「今日、テポドンを打ち上げるとかいってる日だよね。」 宮下「そやなあ。何かそんなこと言っとたなあ。ワハハハハハー。 そやそや、陽子ちゃん、頼まれてたチーズ持ってきたよ。 昨日学舎に取りに行って、保冷剤はちゃんと冷凍庫に入れて、 チーズは冷蔵庫に入れておいたから。」 田代「ありがとう。私のかばんいっぱいだから、そのままチーズ持ってもらっていい?」

飛行機は満席だった。無事羽田に到着。 やはり東京はあったかい。モモヒキをはいてこなくてよかった。 モノレールで浜松町へ。車窓からの桜がとてもきれいだった。 ついつい話し込みすぎて、浜松町で降りそこなってしまう始末。 そして浜松町からJRで赤羽まで移動し、そこから高崎までの電車に乗った。

16:00。高崎駅に到着。 小松茂樹さんが車を出してくれて、息子のヨシキくんと出迎えてくれた。 小松さんは前回の自主上映の時のメンバー。 久しぶりに会ったヨシキは少し恥ずかしそうにしていた。 今回も、これから小松家にみんなが集まり飲み会がある。 そして私と宮下さんは小松家に泊めてもらうことになっている。 翌日の高崎映画祭での「空想の森」の上映を前に、 こころゆくまでみんなと飲めるのが嬉しい。

今晩のことを思うだけでコーフンしてくるが、 まずは、5人で映画祭が開催されているシネマテークたかさきへ。 ここは2つスクリーンがある映画館で、その1つが映画祭の会場になっている。 この映画祭を中心になって運営している志尾睦子さんは、 この映画館の支配人でもある。

志尾睦子さん 彼女はもう一つの会場、シティギャラリーの方にいらっしゃるとのこと。 そちらに向かう。 受付の前で志尾さんと再会。忙しそうだった。 簡単にご挨拶をし、宮下さん、小松さんを紹介。

そして、高崎中心部から少し離れた小松家へ。 かおりさん、あすかちゃん(あーちゃん)と再会。宮下さんを紹介。 あーちゃんは相変わらずかわいくて元気いっぱいだった。 宮下さんはお風呂をすすめられ、早速一風呂。 ヨシキとあーちゃんは「あそぼ、あそぼ」ということで、 3人でかくれんぼをすることに。 かおりさんと茂樹さんは、宴会の準備だ。

6時をまわると、ぞくぞくとみんながやってきた。 竹渕進さん、智子さん夫妻、田中耕二さん、悦子さん夫妻。 鈴木真吾さんとその彼女、吉田さん、甲田くん、竹田くん。農業を始めて1年目のもんまさん、 […]

旅する映画 その5 高崎映画祭へ ~序文~

空想の森が完成して、一年が過ぎた。 この間、がむしゃらに突っ走ってきた、という感じだ。 それが、今を確かに自分で生きてるって、感じることでもあった。

自宅の食卓テーブルが、手紙や本、書類などの山になって久しい。 嬉しいことに、旅の多い暮らしになった。 映画と共に旅をしながら、私は、自分のやってゆきたい方向が少しづつ見えてきた。 何をしていくべきか、おぼろげながら、その輪郭が見えてきた。

映画は完成した。 しかしまだ、それにまつわる私がやるべきことは終わっていない。 映画は本当に面白いのもだ。

次から次へと先が見えてくる。 一本の映画に、終わりがあるのだろうか。 ないのかもしれない。 終わりは、自分で決める日が来るのだろ。

 

旅の途中。 電車やバスの窓を流れていく風景。 ぼんやり眺めていると、心を動かされることが時々ある。

繁華街の商店街。 コンビ二や携帯電話の店など、新しい店が立ち並ぶ。 そんな新しい店に挟まれた格好で、 いかにも古そうな面構えの小さな間口のうなぎ屋があった。 早朝。 私はバスの中。信号待ちのわずかな時間のことだった。 腰の曲がったおばあさんが、その小さな店の入り口の木の格子戸を、 しゃきしゃきと雑巾がけをしていた。 朝の光が、それを照らしていた。 きっと毎日、ずっと昔から、こんな風に掃除をしているのであろう。 ここのうなぎはどんな味なのだろうか。 きっとおいしいに違いない。

田舎道を、バスで移動中のこと。 辺りは稲作地帯だった。 あぜ道。 コンテナに腰をかけて、田んぼを眺めているおじいさんが一人。 春のうららかな陽射しにつつまれていた。 何を思って眺めているのだろうか。 もうすぐ始まる田植えのことを考えているのだろうか。 それとも、俺の田んぼは美しいなあと思って眺めているのだろうか。

 

上映の旅で出会う人たちと交わす会話、地元の旨い酒と食べ物。 偶然見かけた人の営みの断片、そこに降り注ぐ陽の光、幾種類もの萌え出る緑が、 全てを出し切って空っぽになっている私の身体に染み入ってくる。 現在、私の目の前にある今を感じたい、味わいたい。

何だかそう、私は思うのです。

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