映画「空想の森」便り 第3号 2003年3月 監督:田代陽子
みなさん、こんにちは。
2003年になり、いよいよ映画『空想の森』は本格的な撮影のスタートを切りました。
先月の2月17日〜28日のロケの様子を報告したいと思います。
今回は、主な登場人物の一人、安田有里さんを中心に撮影をしました。
彼女は十勝の帯広市の隣、芽室町に住んでいます。
6年間、北海道国際センター帯広で働いていました。
そこは世界各地からやってくる研修生の宿泊施設で、彼女はフロント業務が主な仕事でした。
安田さんは、様々な国の研修員たちを笑顔で迎え、時にはその国の文化を十勝の人たちと体験できる催しを企画したり、いっしょに参加したりこの仕事を楽しんでいました
。彼らが快適に過ごせるよう、そして北海道に十勝に来てよかったと思えるよう心をくだき、いつも研修員の立場に立ち、誇りをもって働いている姿を、私は友だちながら素敵に思っていました。
安田さんのおかげで私も自分の暮らす十勝で、様々な国の人たちとかしこまらない楽しい交流をさせてもらったことは、今もいい思い出です。ニカラグアの研修員の方に、コーヒー豆の焙煎のやり方を教わり、自分達で焙煎したたコーヒーをみんなで飲んだり、インドのサリーを着せてもらったり、研修員の人たちと山登りに行ったりとずいぶんと楽しませてもらいました。
また、安田さんはアフリカの太鼓「ジンベドラム」のライブ「タイコの時間」を中心になって企画し、勤め先の国際センターでも、何回か開催しました。十勝界隈では、ジンベドラムもだいぶ知られてきて、毎回楽しみに来てくれるお客さんも少なくありません。
センターには、アフリカの国からの研修員も多く、それはもう、踊って歌って楽しいライブになるのでした。
昨年、彼女はその仕事を辞めました。
そしてすぐに帯広で行われた現代アート展、「デメーテル」で総合案内や関連イベントの企画、開催などの仕事をして働いていました。
それも終わり、現在は次にどうしていこうかと色々考えているところにいます。
仕事、空想の森映画祭をはじめ、今までいつも何かしらイベントを抱えて忙しく走っていた安田さんが立ち止まり、これからのことを考えたり、自分の暮らしを楽しみながら、少しだけゆったりと過ごしているそんな時期に撮影をさせてもらいました。
●田代陽子の撮影日記●
2003年2月17日(月)朝、少し雪、晴れ
帯広で当面の食料の買い出しをして、新得町新内の宿舎(故小川豊之進さんの家)へ。
私たちは「じいちゃんち」と呼んでいる。
ドキュメンタリー映画『森と水のゆめ』(藤本幸久監督、田代陽子は助監督)の主人公が故小川豊之進さんだった。
私たちはじいちゃんと呼んでいた。
じいちゃんが亡くなり、誰も住む人がいなくなった家を、撮影の時にスタッフの宿舎として貸してもらっている。
今年はこれまで2回、大雪が降り、今は誰も住んでいないじいちゃんちは、雪に埋もれている。
私の手ではとても除雪はできないので、前もってじいちゃんの次男で新得町に住んでいる進さんに除雪をお願いしたら、快く引き受けてくれる。
進さんは除雪機をもっているのだ。
じいちゃんの長女、まさ子さんのつれあいの西村さんも、私たちが撮影に入る前に除雪をしてくれた。
そのおかげで道路から玄関までと、玄関から薪小屋までがスムーズに通れるようになっていた。感謝。
まずは薪小屋と母屋をなん往復かして母屋に薪を運び込む。
ここは薪ストーブがメインの暖房なのだ。がんびを多めに入れ、とにかくガンガン火をたく。
「がんび」とは白樺の幹の皮で、ほんの少しですぐに火がつく。焚き付けには最高なのだ。
しかし、冷えきった家はちょっとやそっとでは暖まらない。
次は水だ。
北海道では冬の間、水道管の破裂を防ぐため、全ての蛇口を全開にして水の元栓を閉めておくのだ。
これを「水落とし」という。
しばらく留守にする時や、断熱材のあまりない昔の家などは、毎晩この作業をしなくてはいけない。
この逆の作業をして、水落としを解除。
よかった、水が出てきた。茶色く濁った水なのでしばらく出しっ放しにしていた。
しかし廃水管の水が溜まってしまう部分が凍っていたのだろう。
廃水が流れていかず、シンクに溜まってしまう。これは家を暖めて氷が解けるのを待つしかない。
そうこうしているうちに撮影の小寺君が来た。
ボイラ−と洗濯機を使えるように作業をする。
ボイラーは使えるようになったが、管から水が漏れてくる。
困った時にはいんであん。
小寺君が電話して、いんであんが今晩ボイラーを見に来てくれることになる。
西村さんも様子を見に来てくれた。
今晩は煮炊きができないだろうからと、自宅に晩ご飯を食べにおいでと誘ってくれる。
本当にありがたい。私が携帯電話を持っていないので、何かあった時に連絡がとれるようにとハンディー無線を置いていってくれる。
夕方頃、家が暖まってきて、ようやく廃水の氷が解け、水が流れていく。
小寺君と二人で喜ぶ。
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